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│人間やりたい記│
人間やりたい記
6.17深夜
深夜〜「死んだらどうなっちゃうんだろう?」「なくなっちゃうんだよ」「永遠に?」「永遠に …」「ずっとずっと地球は回り続けるのに?」「…そう、永遠になくなるんだ」「…」ーー宇宙の、そ の向こうのイメージ。思いつくのは、ただただ茫漠とした灰色の世界。そこで俺は形なく意識なく、あ てどもなく、ただフワリフワリと浮き行くのか。『死』その余りにも超然とした難題は、中、高校生時 分の俺の想像力の限界を、夜ごと散々にもて遊び苦しめた。眠れない眠れない眠れない。考えれば考え ただけ、心臓がハレツしそうに高鳴って、息が苦しくなって、途方もなく怖くなって、叫びたいほど怖 くなって…眠れやしない。友達に相談するのもさあ、なんだか馬鹿にされそうだったし、母親なんざあ 「死んだら、ハイ!そーれま〜で〜よ〜♪…うるさいわねー!眠れないんだったら勉強しなさい!勉 強!!」って、変にキレられるのが目に見えてたからねえ。俺は毎夜、パニックに陥りそうになるの を、一人必死で、時には腹筋やら腕立て伏せやらしてみたりしながら、悶々とこらえてたんだ。そんな 苦行の日々から、俺を解放してくれた人がいる。いや、正確に言えば、解放してくれた人達〜最初はタ モリだったなあ。ニッポン放送、深夜の人気番組“オールナイトニッポン”。この番組こそが、悩みあ がき、毎夜パニック寸前となっていた俺を見事に救ってくれたんだ。深夜1:00から第一部、3:0 0から第二部(土曜のみ一部構成/日曜はやってなかったか?)それぞれ日替わりDJによるこの番組 に俺は夢中になった。中でも良く聴いたのが、タモリ、つるこう、中島みゆきに始まり、ビートたけ し、とんねるず、辻仁成、うじきつよし、サンプラザ中野、小泉今日子…ラジカセをベッドに持ち込ん でさあ、ヘッドフォーンなんざあなかったから、ボリュームギリギリまで絞って、布団の中にもぐって 聴いてたなあ。タモリのウィットに富んだ小咄は、当時、半分位しか理解出来なかったけれど、なんと も愉快で大人の臭いがしたし、反対につるこうの、手で叩いたレコードの曲名を当てさせる、究極のイ ントロ当て?コーナーの馬鹿らしさ!“あ〜い〜もとくみこ”のコーナー?は純情一直線の中学生に は、お釣りが来るほどHだったなあ。たけしの各コーナーに送られて来るハガキはどれも凄まじい笑激 で、深夜、吹き出す笑いをこらえるのが大変だった。とんねるずの業界ネタは、なーんかちょっと売れ ちゃった同級生が、ラジオではしゃいで喋っているような親近感、ワクワク感に満ち、辻仁成は“ハガ キ”を“カード”と呼び切る徹底ぶりで、その仁成ロックウェイを突きつけてくれた。アイドル初のオ ールナイトニッポン登場となった小泉今日子だったけれど、たけしが軍団を率いてフライデー編集部を 襲撃した夜、生放送第一声で「たけしさん格好いいよ!」と問題発言をするなど、そのぶちまけトーク は、“好きな食べ物はケーキ”みたいな、当時のアイドルの概念を粉々に粉砕すると、俺の心をガシリ とワシヅカミにした。中学から高校生にかけての、死や宇宙への偉大なる畏怖。身近には、友人や教師 との折り合い、家族や彼女、クラブ活動や将来の事。怖くて、辛くて、勝手に孤独だったり、何もかも 嫌になったり…そりゃあ多感だよ!そんな、どうにもならなくなっちゃいそうな時、ハレツしそうな深 夜、ラジオから溢れ出す言葉は、とてつもない勇気を俺に与えてくれた。
映画“ニューシネマパラダイス”のラストシーン。主人公が子供の頃に通いつめた、町の小さな映画館 のおっちゃんが死んじゃうんだけれど、知らせを聞いた主人公が、久しぶりに故郷に、映画館に帰って 来る。おっちゃんが遺したフィルムが出て来てさあ、映写してみるんだよね。すると子供の頃にはカッ トされてて見られなかった、古き良き時代のラヴシーンの数々が延々と流れるんだよね。おっちゃんが カットしたやつを、繋いでとっておいてくれたんだ。どこまでも純粋に一喜一憂、何もかも忘れて映画 に夢中になったあの頃。感慨深く見入る主人公…なんかあのシーンにシンクロするんだよね。古ぼけた カセットテープが出て来てさあ、何気なく再生してみると、タモリのつるこうのたけしの声が次々と溢 れ出て来る感じ。夢中になって聴いていたあの頃。とんねるず、仁成、キョンキョン…どの声も若く、 艶があってギラギラしている。眠れない眠れない眠れない…あの頃の感じ。
南 謙一