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人間やりたい記

人間やりたい記
8.19深夜

どうにも8月入ってからダラダラいろんなコトが進まずイライラしてばかりだったんだが、ライブも近づきスイッチ入って来ました。久し振りに人間やりましょう。

9日“代々木ZhertheZoo”でのライブ終了後、志賀と上北沢の居酒屋で軽く飲んで帰宅。家に帰ってからもなんやかや朝方まで飲んで泥のように眠る。眠る。強烈な冷房で恐ろしく冷えた部屋で目覚めると、既に陽は傾きかけてて、志賀もどうやら自分の家に帰ったようだった。冷房を切って窓を開けると、ぬるーいサウナに入ってるみたいで、ゆっくりゆっくり体温が戻って来る。やがて体のいろんなところがちゃんと機能してくると、腹が減ってるのに気付くんだよね。さて何食うかな…って体調と相談するワケだ。深飲み翌日の王道でラーメンか…そしたらやっぱり“大勝軒”だよな…いや待て、“大勝軒”のラーメン食いきる力あるかなー(ここの麺の量は通常のラーメン店の2倍なのよね)…かと言って小ラーメンを頼むのは俺の美学に反するし。一寸悩んだけど結局“野菜”と“汁”と“つるつる食感”を体が欲してると判断。“新京”の“モヤシラーメン”に決定。サンダルつっかけいざ出陣だあ!
しっかし暑い。アスファルトと残存アルコールと蝉の声とがどろどろに溶けて混ざって、もう歩いてんだかなんだか…しかもやっとこさ辿り着いてみりゃ“準備中”って!きゃ〜〜〜〜〜ダメ、倒れる。救急車呼んで!だいたいもう口ん中は“モヤシラーメン”一色だっつーの!あ〜〜〜〜〜〜〜そーかい。こーなったら作りますとも“モヤシラーメン”!…渾身の一品をね!!作ってみせますともーーーーーーーー!!!!!!
折れそうなハートに鞭入れて早速近くのスーパーに駆け込む。ここで仰天事件発生ですよ!アンビリーバブル!!“モヤシ売り切れ”って!!…………確かにここのスーパー安くて(その名も“激安スーパー”)モヤシとか毎日20円とかで早くに売り切れちゃうんだけど…今日じゃなくったって。もうダメ、ここで力尽きる。“大勝軒”行こう。
俺が小学生の頃、永福町に本店のある“大勝軒”が暖簾分けした店が下高井戸に出来たんだ。本店は京王帝都沿線に住んでて知らない奴はいない程の有名店。下高井戸店も出だしは行列が出来る盛況ぶりだったんだけど、やはり本店と比べられちゃうとね…まあ“行けば並ばずに入れる”程度に客足も落ち着いたんだ。それでもこの辺りじゃあ旨かったから家族3人で良く行った。本当によく行った。しかも数年後にこの“大勝軒”が家の近所に移転するのよ。こうなったらもう!店は基本おじちゃんとその娘さん(可愛いんだこれがまた)がやってるんだけど、バイトで小太りなおばちゃんが居てさ。このおばちゃんとウチの母親が仲良くなっちゃって、たまに一緒に飲みに行くようにまでなっちゃって、自然通う回数も増えるわな……中学、高校ってどんどん俺も弟もデカくなるんだけど変わらずに行った。“大勝軒”の店内じゃあ思春期も反抗期もお休みさ!“ラーメン大盛り”通常店の3玉分だあ!!!ところが俺は高校を卒業してからバイトにハマって、あまり家にも帰らずでピタリと“大勝軒”行かなくなっちゃったんよね。しまいにゃあ一人暮らし始めちゃったからもう全然縁遠くなっちゃって、風の噂におばちゃんは辞めちゃったとかは聞いてたんだけど…時は流れるワケだ。母も再婚したりして、弟一人暮らしの実家に俺もちょくちょく戻ったりで、ある日ふと思い出してさ、行ってみたんだよね“大勝軒”。今思えば10年以上ぶりだよ。そしたら相変わらずおじちゃんと娘さん居てさ〜ああ変わってないなあ、って…温かくって懐かしい、なんとも言えない気分だよね。どんなに旨いラーメンも勝てない思い出の味ってヤツだ。おじちゃんも娘さんも無口な人だから昔からあまり話した記憶なくて、そん時も「あれっ久し振り」みたいなアイコンタクトがあっただけだったんだけど。嬉しかった。兎に角それからまた良く行くようになった…
“モヤシラーメン”に嫌われたその日はね“大勝軒”が呼んでたんだな。完全に呼んでた。店の前まで行ったらいつもと様子が違って、作業着の人が店内から椅子だの寸胴だのを運び出しちゃってるんだ。俺がぼんやり店の前につっ立ってたらその人が
「今日でお店終わりなんだよ」って……!?
「更新できなかったんだよ」
なんだかピンとこなかったんだけど、店の奥を覗いたら娘さんがこっち見て小さく頷くんだ
「ごめんね今日で終わりなんだ」ってアイコンタクトだった。

思い出の味が消えるのは本当に寂しい。他の誰にも再現なんて出来やしないんだから。最後の日に行けたのは“大勝軒”を愛し続けた俺の、南家のパワーだと思いたい。時代は変わるんだなあ。こんな身近な出来事にこそ実感するよ。より良い、より強烈な思い出の味を作れるようやって行きたいよな。
「お疲れさま、ありがとう」って俺も頷き返して帰ったよ。

南 謙一 

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